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高橋洋一の民主党ウォッチ 民主の郵政民営化見直し 政策能力が酷いこと示すいい実例(J-CASTニュース)
- 2010.03.18 Thursday
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マスコミはまったく注目していないが、民主党の政策能力が酷いことを示すいい実例がある。2010年2月24日、塩崎恭久衆議院議員(自民党)が提出した質問主意書に対する3月5日に閣議決定された政府回答である。
塩崎議員の質問は、政府の郵政民営化の見直しに際して、将来像を表すシミュレーションを行うか、という素朴かつ本質的ないい質問だ。これに対する回答は、「試算は可能だが、日本郵政の経営なので、政府としてシミュレーションの結果に責任を負うことは困難である」と、責任を負いたくないという本音がでてしまった。これは珍しい回答だ。
■答弁と違って、「数字」はごまかしがきかない
このように政府の官僚は対外的に数字を出すのを極端に嫌う。嘘が一発でばれるかもしれないからだ。後で適当に言い逃れができ、責任を追及されないように、抽象的な答弁をする。だから、国会では大きな方向を示すおおざっぱな議論のほうが、都合がよい。ネチネチと事実や数字を質問する議員は要注意だ。だから、事実を踏まえた上に、将来像に関する試算や各種のシミュレーションまで議論が行われることはまずない。
ところが5年前、郵政民営化が国民的議論になった時には、そこまで徹底した議論が行われた。実をいえば、当時の民主党らの郵政民営化の反対勢力が、政府側がシミュレーションをだすことを生理的に嫌っていることを承知の上で、わざと政府に要求したのだ。
私は、当時の竹中平蔵・郵政民営化大臣のもとで、郵政民営化の基本方針をつくり、その法案化と数値化の両方の作業をしていた。法案化はそれなりに大作業であったが、時間と人をかければできた。ところが、将来像をすべて数値化するシミュレーションは、法案化の何倍かの知的労力を必要とした。しかも、言葉の上で繕える話も、数字ではごまかせない。
例えば、郵政について、民間経営のもとで収益を上げつつ、一切の国民負担をかけずに、一定の公共サービスを提供できる仕組みを構築するという答弁は1、2分で書ける。ただし、これをどのくらいの収益が可能性としてあり、そのなかでどのくらいの公共サービスが可能であるのかを数値化することは1、2週間の作業が必要だ。竹中大臣は、文系ばかりの官僚が作文を書けても計算はできないことをよく知っていたので、私にできるかとこっそり聞いてきた。ただし、事態はひっ迫していたようで、私が拒否できる雰囲気ではなかった。そこで2か月の時間をもらって将来像シミュレーション作業に取り掛かった。
郵政は、郵便、貯金、保険や郵便局と業務が多岐にわたるので各パーツに分解して細かい計算をするので多数の民間人のアシストも必要だった。その計算結果は、郵政民営化のロジックをすべて数値化したもので、何回かにわけて、政府の責任ですべて公表した。
■まじめに計算すれば税金投入は避けられない
民営化とは、民間経営民間所有だ。政府の出資がないので、民間とイコールフッティング(競争条件平等化)になり民間とおなじ業務が可能になる。この点は、貯金や保険の金融では決定的に重要だ。金融はリスクを引き受けて収益をあげる。そこで政府からの出資があると、民間金融と対等になれず、民間との競争ができない。だから、政府出資があるうちは業務に制限が必要になる。これを株主の国民側からみれば、金融というリスクの対価で収益を得る性格上、業務の失敗で国民負担になったら困るので、あらかじめ業務に制限を課すということになる。
民営化すれば、業務の制限がなくなるので、シミュレーションの結果、収益を年間1兆円稼げる可能性が出る。これが民営化を数値化した姿である。もちろん民営化は収益を確実に保証するものではないが、民間人の平均的な経営であれば、稼げる可能性は高い。逆にいえば、今政府が進めているように政府出資を残せば、業務の制約が残るので、収益は限界が出てくる。こうなると結局、郵政職員20万人以上を喰わすためには、最大年間1兆円の税金投入が避けられなくなる。
このように、シミュレーションは、必ずしも将来を予測するものではなく、曖昧な点をなくし民営化の構造を数値化して明快にすることに意味がある。
かつての野党民主党は、郵政民営化の対案を示し、独自の民営化後の経営内容のシミュレーションも出した。もっとも、そのときのシミュレーションは政府のものとほとんど同じなのに、対案がちがうという「羊頭狗肉」そのもので失笑を買った。今は与党だから、そうした無様な真似はできないだろう。といって、まじめに計算すれば、郵政民営化を見直した結果、税金投入は避けられないのが誰の目にもわかってしまう。
また、大塚耕平・内閣府副大臣(郵政民営化担当)は、テレビ番組でかつて小泉政権の時と同様のシミュレーションを策定すると発言した。なんと言葉の軽いことか。計算はできるが、責任を負いたくないでは、話にならないだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。
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塩崎議員の質問は、政府の郵政民営化の見直しに際して、将来像を表すシミュレーションを行うか、という素朴かつ本質的ないい質問だ。これに対する回答は、「試算は可能だが、日本郵政の経営なので、政府としてシミュレーションの結果に責任を負うことは困難である」と、責任を負いたくないという本音がでてしまった。これは珍しい回答だ。
■答弁と違って、「数字」はごまかしがきかない
このように政府の官僚は対外的に数字を出すのを極端に嫌う。嘘が一発でばれるかもしれないからだ。後で適当に言い逃れができ、責任を追及されないように、抽象的な答弁をする。だから、国会では大きな方向を示すおおざっぱな議論のほうが、都合がよい。ネチネチと事実や数字を質問する議員は要注意だ。だから、事実を踏まえた上に、将来像に関する試算や各種のシミュレーションまで議論が行われることはまずない。
ところが5年前、郵政民営化が国民的議論になった時には、そこまで徹底した議論が行われた。実をいえば、当時の民主党らの郵政民営化の反対勢力が、政府側がシミュレーションをだすことを生理的に嫌っていることを承知の上で、わざと政府に要求したのだ。
私は、当時の竹中平蔵・郵政民営化大臣のもとで、郵政民営化の基本方針をつくり、その法案化と数値化の両方の作業をしていた。法案化はそれなりに大作業であったが、時間と人をかければできた。ところが、将来像をすべて数値化するシミュレーションは、法案化の何倍かの知的労力を必要とした。しかも、言葉の上で繕える話も、数字ではごまかせない。
例えば、郵政について、民間経営のもとで収益を上げつつ、一切の国民負担をかけずに、一定の公共サービスを提供できる仕組みを構築するという答弁は1、2分で書ける。ただし、これをどのくらいの収益が可能性としてあり、そのなかでどのくらいの公共サービスが可能であるのかを数値化することは1、2週間の作業が必要だ。竹中大臣は、文系ばかりの官僚が作文を書けても計算はできないことをよく知っていたので、私にできるかとこっそり聞いてきた。ただし、事態はひっ迫していたようで、私が拒否できる雰囲気ではなかった。そこで2か月の時間をもらって将来像シミュレーション作業に取り掛かった。
郵政は、郵便、貯金、保険や郵便局と業務が多岐にわたるので各パーツに分解して細かい計算をするので多数の民間人のアシストも必要だった。その計算結果は、郵政民営化のロジックをすべて数値化したもので、何回かにわけて、政府の責任ですべて公表した。
■まじめに計算すれば税金投入は避けられない
民営化とは、民間経営民間所有だ。政府の出資がないので、民間とイコールフッティング(競争条件平等化)になり民間とおなじ業務が可能になる。この点は、貯金や保険の金融では決定的に重要だ。金融はリスクを引き受けて収益をあげる。そこで政府からの出資があると、民間金融と対等になれず、民間との競争ができない。だから、政府出資があるうちは業務に制限が必要になる。これを株主の国民側からみれば、金融というリスクの対価で収益を得る性格上、業務の失敗で国民負担になったら困るので、あらかじめ業務に制限を課すということになる。
民営化すれば、業務の制限がなくなるので、シミュレーションの結果、収益を年間1兆円稼げる可能性が出る。これが民営化を数値化した姿である。もちろん民営化は収益を確実に保証するものではないが、民間人の平均的な経営であれば、稼げる可能性は高い。逆にいえば、今政府が進めているように政府出資を残せば、業務の制約が残るので、収益は限界が出てくる。こうなると結局、郵政職員20万人以上を喰わすためには、最大年間1兆円の税金投入が避けられなくなる。
このように、シミュレーションは、必ずしも将来を予測するものではなく、曖昧な点をなくし民営化の構造を数値化して明快にすることに意味がある。
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